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研究会メールマガジン第一号 (2025年8月31日)「盛和塾」創刊号に学ぶ

「盛和塾」創刊号に学ぶ

1992年に発刊された「盛和塾」の機関誌創刊号には、当時の経営者たちの熱い思いが刻まれている。稲盛氏から直接経営を学びたいという切実な願いと、真剣に自らを変えたいという姿勢が紙面から伝わってくる。稲盛氏もまた、その熱意に応えて全身全霊で塾生と向き合っている様子が伺える。また、稲盛氏は「経営者こそ社会変革の担い手である」いう言葉で、経営者が正しく立派であることが、自社の反映にとどまらず社会全体を良くすることにつながるという高い理念を示している。稲盛氏の教えは単なる技法ではなく、経営者の生き方を問うものだった。そのカリスマ的な情熱と徹底した無私の精神、そして自身の経営成果が伴っていたからこそ、多くの経営者の心を揺さぶり、行動を変えさせたのだろう。稲盛氏自身の存在感は特別であり、同じことは誰にもできないが、盛和塾の後継塾や各地での経営者どうしの学び合いが、「経営者の心を揺さぶる部分」をどれだけ受け継いでいけるか、期待が寄せている。
さらに創刊号での印象的なのは、稲盛氏が「塾のメンバーは、一般の二倍、三倍の成果を上げなければ来た意味がない」とまで言い切り、実際の経営指標─売上や利益、従業員数─の伸長を定期的に測定すべきと提案している点である。理念と実績を結びつけることへの強いこだわりが、ここに表れている。
理念を数値的成長に落とし込む方法は、稲盛氏自身の実践知に支えられていた部分が大きく、今日に至っても整理・解明しきれていない。私はここに、稲盛経営を学ぶ経営者が直面する「教えをどう企業業績につなげるか」という最大の課題を見いだす。そのためには仕組みが必要になる。稲盛氏がアメーバ経営や京セラ会計学、稟議制度といった制度設計を重視したのも、この課題を克服するためだろう。理念や哲学は普遍的で、時代や状況によって変わることはない。しかし、それを成果に結びつける具体的な方法論は、事業環境や業種、企業規模によって変わり得る。今日、稲盛経営を学ぶ私たちに求められているのは、理念を体得するだけではなく、それを経営管理の実務へと翻訳し、数値と理念の両立を実現する工夫である。「稲盛経営の現代的意味を考える研究会」は、この課題に正面から取り組む場でありたい。理念を理念で終わらせず、経営者一人ひとりが実務の中で成果に結びつける知恵を共有し合う。そこにこそ、この研究会が存在する意味があると考えている。

(文 青山敦)

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