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研究会メールマガジン第三号 (2025年10月31日)「モチベーションの心理学」
[モチベーションの心理学]
今月開催された野村一氏の勉強会での話に、DDI設立時に皆、364日働いていたこと、次々と直面する難題に取り組んでいき、それを一つ一つ解決していったこと、その中で稲盛和夫氏に叱られたことがありました。そして叱られても、その後に稲盛氏からフォローアップがあったことも付け加えられました。私はこれらの実話を聞いて、一つの理論を思い出していました。稲盛氏は心理学者ではありませんでしたが、もしかしたら、この理論を知っていたのではないかと思うほど、その理論を実践されていたように感じたのです。
それは、モチベーションの理論で「自己決定理論」と言います。これは心理学者のデシとライアンが提唱したもので、モチベーションを、何かをやることを自分自身の意思で考え、選択し、決定する(自己決定)レベルの違いで説明したものです。このモデルでは、モチベーションを自己決定度合いの一番低い「非モチベーション」から、外部からの要因によって行動に制限がかかっている「外発的モチベーション」、そして自己決定度合いの一番高い、自分の意思で自発的に行動する「内発的モチベーション」までを一連の流れとして捉えています。つまりモチベーションは自己決定度合いにより、やりたくないという状態から、怒られるからやる、やらないと不安だからやる、そして達成したい、やるのは当たり前、やることが楽しくて面白いという状態に変化すると捉えています。
私たちの仕事は、まず外発的であることが多いのではないでしょうか。プロジェクトの一員として任せられた仕事なのでやる、人から認められたいからやるなどが出発点であることが多いと思います。それでは、この外発的モチベーションはどうしたら内発的モチベーションに変わるのでしょうか。デシとライアンは、次の3つの心理的欲求が満たされることが必要だと言っています。それは(1)自律性、(2)有能性、(3)関係性です。これらの心理的欲求が満たされればモチベーションは高まると述べています。
「自律性」とは、自らを律しながら主体的に行動していることです。行動を自らの意思で決定できる状態を指します。「有能性」は、自分に能力が十分にあって、優れていると感じられる状態です。「関係性」は、他者との良い関係を持っていると実感できる状態です。これら3つの心理的欲求が満たされることが、私たちのモチベーション向上の鍵となっています。
さて、野村一氏の勉強会での話に戻ってみましょう。DDI設立時、皆さんが364日働いていたのは、「内発的モチベーション」だったように思います。話の内容から、みんながやりがいを持っていたと感じたからです。そしてそれは、プロジェクトを任せられた(自律性)、そしてそれが大変な苦労をしたけれども成功した(有能性)、そして稲盛氏をはじめとする、関係する人々との良い人間関係の中(関係性)で進んでいったからなのではないかと、私は心理学者として聞いておりました。稲盛氏が自己決定理論を知っていたかどうかわかりません。しかしながら、デシとライアンの考えたモチベーションの向上理論と、稲盛氏の実践が非常に合致しているように思えてなりません。稲盛経営の現代的意味を考える研究会としては、こういった発見を皆さまにお伝えすることで、稲盛氏の実践してきたことを、理論的にも整理して考えられることをお伝えしたいと思っています。そしてそれは、さらに応用に適用していけると信じています。
(文 山岸典子)